映画「ジョーカー」あらすじと考察。

「ジョーカー」はトッド・フィリップス監督によって、2019年アメリカで製作されたサスペンススリラー。

ボブ・ケイン等3人のクリエイターたちが創り上げたキャラクターをもとに、フィリップス監督と脚本家のスコット・シルヴァーが122分のオリジナルシナリオを書き下ろしています。

「ハングオーバー!」や「GGアリン」などメガホンを取ったのは、コメディからドキュメンタリーまでの創作活動を続けている映画作家です。

第76回のヴェネチア国際映画祭ではワールドプレミア作品として上映されていて、最優秀賞作品賞にも輝きました。誰しもがしるマーベルコミックの名物悪役の、知られざる出生秘話を暴き出していく問題作に仕上がっています。

「ジョーカー」あらすじ

アーサー・フレックはゴッサム・シティーで病弱な母親の面倒を見ながら、大道芸人として生計を立てていました。

幼い頃に脳と神経に損傷を負ったことがきっかけで、アーサーは突如として笑い出すという特異体質を抱えています。

7種類の投薬治療と市から派遣されたボランティアのカウンセリングを受けているが、一向に収まる気配がなく…。

勤務時間中に襲撃を受けたアーサーに、護身用のピストルを渡してくれたのは、日頃から仲の良かった同僚のランドルです。

この秘密の武器のせいで人が変わったように明るくなったアーサーは、コメディアンとして小さなバーのショーに出演します。

この時の映像がテレビ番組で取り上げられたことによって、「ジョーカー」と名付けられたピエロ姿の扮装が流行して市街地は大混乱へと包まれていくのでした。

これまでにないジョーカーを怪演

アーサー・フレック冴えない日常生活に鬱屈とした想いを抱いている、主人公のアーサー・フレック役はホアキン・フェニックスです。

ポール・トーマス・アンダーソン監督作「ザ・マスター」での、第2次世界大戦を生き延びたアルコール依存性気味な兵士。

ウディ・アレン監督の2015年作「教授のおかしな妄想殺人」での、異常なほど思い込みが激しい哲学科の大学教授。

過去にもふとした一瞬から道を踏み外していく中年期の男性特有の悲哀感を体現してきましたが、今作での怪演には圧倒されます。

そんな孤独なアーサーにとっては心の拠り所となる、ヒロインのソフィー・デュモンドを演じているのはザジー・ビーツです。

アーサーのお気に入りのバラエティー番組の司会者、マレー・フランクリンにはロバート・デ・ニーロが扮していました。

退屈な現実の世界に捕らわれていたアーサーを導いていく役でもありジョーカーの名付け親でもある、物語のキーパーソンとして存在感を発揮しています。

空虚な大都会が舞台

正義のヒーローの王道を行くバットマンのホームグラウンドで有名な、ゴッサム・シティーが舞台です。

街の中を縦横無尽に駆け回っていくスーパーラットには、ガラパゴス諸島で独自の進化を遂げていく希少生物のような生命力がありました。

劣悪な衛生環境から生じた新種の伝染病のパンデミックや、ストリートギャングによる略奪や暴行事件は跡を絶ちません。

アーサーもお世話になっている福祉事業が近頃では縮小傾向にあるなど、厳しい財政状況を垣間見ることができます。

一般市民による市長への抗議デモが盛り上がっていくシーンには、いま現在のニューヨークを彷彿とさせるものがありました。

異色のダークヒーローを産み出す伏線の数々

アーサー・フレック人気のアメコミヒーローのスピンオフシリーズでありながら、レイティングでは異例のR15指定を受けています。

過激な描写ばかりではなく、これまでのシリーズにも繋がる張り巡らされた伏線と深いメッセージが魅力的です。

「いつ如何なる時でも笑顔を忘れることなく、周りの人たちを楽しませなさい」、とはアーサーの母・ペニー・フレックの言葉が意味深でした。

そんな母親がかつてはお手伝いとして仕えていた、大富豪にして市長選挙に打って出ようとするトーマス・ウェインも重要な役どころです。

返事が来ないことに薄々気がつきながらも、ただひたすら手紙を書き続けているペニーの執念が予測不可能な事態を巻き起こしていきます。

劇中でさりげなく登場するトーマスの幼い息子の、「ブルース」というファーストネームにも注目してください。

ブラックピエロ企業

ピエロ鏡に映し出された疲れ果てた自分の顔を眺めながら、黙々とペインティングをするアーサー・フレックが哀愁たっぷりでした。

メイクルームでは身体的なハンディキャップがある仕事仲間への悪意ある言葉が飛び交い、事務所では強欲な所長の給料天引きが横行しています。

ピエロ派遣プロダクションの入り口に掲げられている、「笑顔を忘れずに!」という空っぽなキャッチコピーが皮肉です。

日々の暮らしぶりは余りにも困窮を極めていて、コメディアンになるというアーサーの夢からはかけ離れています。

勤務時間が終わって帰宅してからも休む間も無く、寝たきりの母親の世話に追われているアーサーの毎日が息苦しいです。

悲劇の引き金

ピエロの仮面地下鉄の車内で笑いの発作が止まらなくなったアーサーに対して、周りの乗客たちが注いでいる冷たい眼差しが印象的です。

今の時代に異質な存在を受け入れることが出来ずにあっさりと排除してしまう、不寛容な風潮や閉塞感について考えさせられました。

大手証券会社に務めていて勝ち組人生まっしぐらな、3人のサラリーマンからアーサーが受ける謂われのない暴力には憤りを覚えます。

列車が終着駅の9番街へ近づいてスピードを落としていくにつれて、車内の緊迫感と不吉なムードもいやが上にも高まっていました。

遂には溜まっていた不平不満を爆発させて、破滅への始まりの引き金に手をかけてしまうアーサーには胸が痛みます。

エレベーターでの接近から扉の向こうの破局

シングルマザーとして幾多の苦難に晒されながらも、明るさと希望を失うことのないソフィー・デュモンドに心温まります。

同じアパートの同じフロアに入居しているアーサーとは、エレベーター内で会話を交わしたことが急接近のきっかけです。

世間から疎外され続けてきて途方に暮れるアーサーに対しても、真正面から向き合っていき偏見を抱くこともありません。

ソフィーとの触れ合いを通して見違えるように生気を取り戻していき、遅すぎた青春時代と束の間のロマンスを謳歌するアーサーが微笑ましかったです。

そんなアーサーに勇気を振り絞ってソフィーの部屋のドアを開けた時に、目の前に突き付けられる真実が衝撃的でした。

まとめ

横たわるピエロこれまでアーサーが積み重ねてきた時間の全てと、歩んできた多くの道のりが揺らいでいくクライマックスが圧巻です。

爆発的な熱狂的の渦にとり憑かれていく群衆に持ち上げられたアーサーが、遂にはカリスマ性あふれるジョーカーとなる瞬間を鮮やかに捉えています。

果たして何が真実で何が妄想だったなのか、答えが明示されないあやふやなままで閉じていくストーリーも忘れ難いです。

後にバットマンとなるあの男が、あどけない少年時代の姿でカメオ出演するサプライズまで用意されていました。

シーザー・ロメロやジャック・ニコルソンを始めとする、懐かしの名優たちが演じたジョーカーに思い入れがある世代の方は是非みて下さい。

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